ビッグステイは日本に来るか、転職希望者は増えても転職者が伸びない理由

ビッグステイは日本に来るか、転職希望者は増えても転職者が伸びない理由

「転職したい」と考える人は増えているのに、実際に転職する人の数はほとんど変わっていません。米国では現職に留まり続ける「ビッグステイ」という言葉が広がっています。この記事では、日米の労働市場のデータを照らし合わせ、転職希望と実際の転職のあいだに生まれているズレの正体と、いま動くべき人が取るべき準備を整理します。

目次

米国で広がる「ビッグステイ」とは何か

「ビッグステイ」とは、労働者が転職せず現職に留まり続ける現象を指します。数年前に話題になった「大量離職(グレート・レジグネーション)」とは逆方向の動きです。

数年前、米国では「大量離職」が話題になりました。より良い条件を求めて自ら会社を辞める人が急増した現象です。ところが、その流れはすでに反転しています。

米労働統計局によると、自発的な離職率は1.9〜2.0%の低水準で推移しています(出典:ITmedia ビジネスオンライン「離職率低下は『定着』か、それとも社員の”諦め”か」)。自発的離職者数で見ると、2022年の5000万人超から2025年は約3800万人へと、3年で約25%減少しました。

「定着」と「諦め」は見分けにくい

離職率が下がったと聞くと、社員が会社に満足して定着していると受け取りたくなります。しかし、同じ数字は「転職したいのに動けない」という諦めの表れかもしれません。

離職率という一つの指標だけでは、その中身までは分かりません。会社に残っている理由が前向きな定着なのか、それとも市場環境への様子見なのか。この区別が、企業にとっても働く個人にとっても重要になります。

日本は「転職したいのに動けない」ミスマッチ

日本では転職者数がほぼ横ばいの一方、転職を希望する人は増えています。「動きたいのに動けていない」という需給のズレが生じています。

日本の状況は、米国とは少し異なる形でズレが表れています。

総務省の労働力調査によると、2025年平均の転職者数は330万人で、前年比マイナス0.3%とほぼ横ばいでした(出典:ITmedia ビジネスオンライン、前掲)。実際に会社を移った人の数は、この1年でほとんど変わっていません。

一方で、転職を希望している人の数は動いています。転職等希望者数は1023万人で、前年の1000万人から23万人増えました。要するに、転職したい人は増えているのに、実際の転職は増えていないという構図です。

希望と行動のあいだにある壁

転職を望む人が1000万人を超えているのに、実際に動く人が330万人にとどまる。この差の背景には、いくつかの壁が考えられます。

  • 自分のスキルが他社で通用するか確信が持てない
  • 年収が下がるリスクへの不安がある
  • 忙しくて転職活動に時間を割けない
  • 希望に合う求人が見つからない

これらはいずれも、準備不足や情報不足から生まれる迷いです。逆に言えば、準備を整えることで動き出せる余地があるとも読めます。

ITエンジニアでは転職希望が急増している

労働市場全体が横ばいのなかで、特定の職種では大きな動きが出ています。

レバテックの調査では、2026年6月時点のIT人材の転職希望者数が前年同月比146%増と急増しました(出典:ITmedia ビジネスオンライン、前掲)。全体の転職者数がほぼ横ばいであることを踏まえると、この伸びは際立っています。

背景の一つに、AIの影響があります。別の調査では、AIの影響により20代のITエンジニアの約半数が転職を意識していることが分かっています(出典:同)。自分のスキルがこの先も通用するのか、という不安が転職への関心を押し上げていると考えられます。

人材が足りない側の事情

転職を希望する人が増える一方で、企業側は人材不足に悩んでいます。

IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」によると、日本企業の85.1%が「DX推進人材の不足を感じている」と回答しました(出典:同)。DXとは、デジタル技術を使って事業や働き方を変革する取り組みのことです。

つまり、「転職したいIT人材」と「人材が欲しい企業」の双方が増えているのに、両者がうまく結びついていません。需要と供給がねじれた状態にあると言えます。

転職希望者が多いことは、それだけ競争相手も多いことを意味します。希望者の増加は追い風であると同時に、選ばれるための準備がより重要になる局面でもあります。

需給のねじれのなかで個人ができる準備

会社に残るか動くかを決める前に、まず自分の状態を把握することが出発点になります。データが示すのは、「動きたい人は多いが動けていない」という現実です。この壁を越えるための準備を、具体的なステップに落とし込みます。

スキルを言葉にして可視化する

自分が何をできるのかを、他者に伝わる形で書き出すことから始めます。担当した業務、使えるツール、成果として出た数字を棚卸しします。

DX人材が不足しているという事実は、裏を返せば、デジタル領域のスキルを持つ人には需要があることを示しています。自分の経験のなかにデジタル関連の要素がないか、改めて見直す価値があります。

情報源を一次データで確かめる

転職市場の情報はネット上にあふれていますが、出典が不明確なものも少なくありません。調査名や発表元が明記された一次情報にあたる習慣をつけると、判断の精度が上がります。

この記事で引用した労働力調査(総務省)やDX動向(IPA)のように、発表元をたどれるデータを基準にすると、根拠のない「転職すれば年収が上がる」といった話に振り回されにくくなります。

キャリア相談を早めに使う

一人で抱え込むと、希望と行動のあいだの壁を越えにくくなります。転職エージェントや公的なキャリア相談窓口を、決断する前の情報収集の段階から使うのも一つの方法です。

  • まず自分のスキルと成果を書き出して棚卸しする
  • 気になる求人の応募要件と自分の差分を確認する
  • 不足しているスキルを学び直しの計画に落とす

動くかどうかを決めるのは、準備を整えたあとで構いません。準備そのものが、いざ動くときの判断材料になります。

この記事のまとめ

米国の「ビッグステイ」と日本の労働市場のデータを見比べると、共通するのは「転職しない・できない」状態が広がっている点です。ただし日本では、転職を望む人が1023万人まで増えている一方で、実際の転職者数は330万人で横ばいという、はっきりとしたミスマッチが生じています。

特にITエンジニアでは転職希望者が前年同月比146%増と急増し、企業の85.1%がDX人材の不足を訴えています。動きたい人と採りたい企業の双方が増えているのに、うまく噛み合っていません。

この需給のねじれのなかで個人にできるのは、スキルを言葉にして可視化し、一次情報で市場を確かめ、相談窓口を早めに使うことです。会社に残る選択も、動く選択も、準備が整っていれば納得して選べます。まずは自分のスキルの棚卸しから始めてみてください。

よくある質問

ビッグステイとはどういう意味ですか?

労働者が転職せず、現在の職場に留まり続ける現象を指す言葉です。米国では、数年前に話題になった「大量離職」とは逆の動きとして注目されています。米労働統計局のデータでは、自発的離職者数は2022年の5000万人超から2025年に約3800万人へと3年で約25%減少しています。

日本でも転職は減っているのですか?

実際に転職した人の数は、2025年平均で330万人と前年からほぼ横ばいです(総務省・労働力調査)。ただし、転職を希望する人は1023万人と前年から23万人増えており、「したいのにできていない」というズレが広がっています。

なぜITエンジニアの転職希望が増えているのですか?

レバテックの調査では、2026年6月時点のIT人材の転職希望者数が前年同月比146%増となりました。背景の一つにAIの影響があり、別調査では20代ITエンジニアの約半数が転職を意識していると報告されています。自分のスキルが今後も通用するかという不安が関心を押し上げていると考えられます。

転職希望者が多いのは有利ですか、不利ですか?

需要と供給の両面があります。企業の85.1%がDX人材の不足を感じているため(IPA・DX動向2025)、スキルを持つ人には需要があります。一方で転職希望者自体も増えているため、選ばれるための準備の重要性は高まっています。希望者が多いこと自体は追い風ですが、準備の差が結果を分けやすい局面です。

転職するか迷っているとき、まず何をすべきですか?

動くかどうかを決める前に、自分のスキルと成果を書き出して棚卸しすることをおすすめします。担当業務や使えるツール、出した数字を整理すると、他社で通用する部分と不足している部分が見えてきます。そのうえで、気になる求人の要件と自分の差分を確認すると、次の一手が具体的になります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次