「うちの会社もリスキリングを始めた」と感じている人は多いはずです。ところが調査を見ると、企業が「リスキリング」と呼んでいる取り組みの中身は、政府が想定するものと大きくズレています。この記事では、みらいワークス総合研究所の最新調査をもとに、その認識ギャップの正体と、会社任せにしないための個人の動き方を整理します。
みらいワークス調査が示すリスキリングの実態
まず結論から言うと、リスキリングに取り組む企業は6割を超えている一方、政府が意図する「職種転換を伴う取り組み」と捉えている企業は1割未満でした。この「量は増えたが中身が食い違う」という点が、今回の調査の核心です。
この調査は、みらいワークス総合研究所が従業員500名以上の企業の人材研修・人材開発担当者・役員400名を対象に、2026年3月19日〜22日に実施したものです(出典:みらいワークス総合研究所「日本企業におけるリスキリングの認識とAI影響に関する実態」調査)。
全社実施は38.3%、6割超が何らかの形で着手
数字を具体的に見ていきます。リスキリングを「全社施策として実施」している企業は38.3%。限定実施やパイロット段階を含めると、64.6%が何らかの形で取り組んでいました。
3社に2社が着手しているという水準は、リスキリングがもはや一部の先進企業だけのテーマではなくなったことを示しています。
- 全社施策として実施:38.3%
- 限定実施・パイロットを含む取り組み全体:64.6%
(出典:みらいワークス総合研究所 2026年調査)
「職種転換を伴う」と捉える企業は9.5%
問題はここからです。回答者の61.0%は「職務や役割の転換は前提にしない」取り組みをリスキリングと捉えていました。一方、政府が意図する「労働移動・職種転換を伴うリスキリング」を実践しているという回答は、わずか9.5%にとどまっています。
つまり、多くの企業にとってのリスキリングは「今の仕事を続けるためのスキル更新」であり、「別の職種へ移るための学び直し」ではない、ということです。この定義のズレが、個人のキャリア判断に影響してきます。
なぜ「認識ギャップ」が生まれるのか
同じ「リスキリング」という言葉を使いながら、政府と企業現場では想定している中身が違います。この背景を押さえておくと、自社の施策をどう受け止めればよいかが見えてきます。
政府が意図するリスキリングの定義
日本政府がリスキリング支援を打ち出す際に念頭に置いているのは、成長分野への労働移動です。人手が余る分野から、人手が足りない分野へ人材が移るために、新しいスキルを身につけてもらう、という発想が土台にあります。
経済産業省などの文脈でも、リスキリングは「新しい職業に就くため、あるいは職務が大きく変わる際に、必要なスキルを獲得すること」として語られてきました。つまり「職種転換」が前提に含まれているわけです。
現場では「研修の延長」として運用されている
一方、企業の人材開発担当者の多くは、リスキリングを既存社員のスキルアップ研修の延長として運用しています。今の部署・今の役割のまま、デジタルスキルやAIリテラシーを底上げする——これが現場の実態に近いようです。
どちらが正しいという話ではありません。ただ、この二つが同じ言葉で語られると、「会社がリスキリングを支援してくれるから、自分のキャリアチェンジも後押ししてもらえる」と期待した個人が、実際には転換の支援を受けられずに肩透かしを食う、という食い違いが起こりえます。
生成AIが5割超の企業に施策見直しを迫る
認識ギャップに加えて、もう一つ大きな変化要因があります。生成AIの普及です。学ぶべき内容そのものが、AIによって書き換えられようとしています。
カリキュラム更新・制度設計の見直し
調査によると、生成AI普及の影響で「育成テーマ・カリキュラムの更新が必要」と回答した企業は37.1%。さらに「目的や制度設計の見直しが必要」も17.4%あり、合計すると5割を超える企業が施策の変更を迫られています。
これは、数年前に組んだリスキリング計画がすでに古くなりつつあることを意味します。個人の側から見れば、「一度身につけたスキルで安泰」という考え方が通用しにくくなっている、とも言えます。
推進を阻む3つの壁
では、企業のリスキリングは何につまずいているのでしょうか。阻害要因の上位3つは次のとおりです。
- 指導者・メンター不足:25.9%(最多)
- 人材・スキルデータが整備されていない:24.3%
- 学習・業務適用の時間が確保できない:21.5%
(出典:みらいワークス総合研究所 2026年調査)
注目したいのは、上位が「予算不足」ではなく「教える人がいない」「データがない」「時間がない」という運用面の課題である点です。裏を返せば、自分で学ぶ時間を確保し、学んだことを実務で試せる人は、会社の体制が整うのを待たずに先へ進める、ということでもあります。
会社任せにしないリスキリングの進め方
ここからは、調査結果を踏まえた個人向けの視点です。企業の施策が「スキルの底上げ」に寄っているなら、「職種転換」まで見据えたい人は自分で設計を補う必要があります。
「学ぶ内容」を自分で選ぶ
会社の研修メニューは、あくまで現在の職務を前提に組まれていることが多いものです。将来別の職種・別の役割を目指すなら、研修に乗るだけでなく、自分の目的から逆算して学ぶ内容を選ぶ視点が欠かせません。
- 今の会社で評価されるスキルか、社外でも通用するスキルかを分けて考える
- 生成AIで陳腐化しにくい「判断」「設計」「対人」の力に比重を置く
- 学んだ内容を業務やアウトプットで一度は試す(インプットで終わらせない)
職種転換を見据えるなら
もし本気で職種転換を考えているなら、社内制度だけに頼らない準備が現実的です。調査が示すとおり、多くの企業のリスキリングは職種転換を前提にしていないためです。
具体的には、社内公募制度の有無を確認する、副業で別職種の実務経験を積む、転職市場で評価される資格やポートフォリオを整える、といった動きが考えられます。会社の施策と自分の目標が一致しているかを、一度立ち止まって見比べてみてください。
この記事のまとめ
今回の調査から読み取れるのは、「リスキリングという言葉の広がりと、その中身の実態には距離がある」という事実です。要点を振り返ります。
- リスキリングに取り組む企業は64.6%だが、職種転換を伴う取り組みと捉える企業は9.5%にとどまる
- 企業のリスキリングの多くは「職種転換を前提にしない」スキル底上げ型
- 生成AIの影響で5割超の企業がカリキュラムや制度設計の見直しを迫られている
- 阻害要因の上位は「指導者不足」「データ未整備」「時間不足」という運用課題
会社のリスキリング施策は、キャリアの追い風になります。ただし、その施策が自分の目指す方向と同じとは限りません。まずは自社の制度が「スキルの底上げ」なのか「職種転換の支援」なのかを確認し、足りない部分は自分で補う——この視点を持つだけで、学び直しの一歩が具体的になります。気になるスキル領域があれば、今日から学べる無料講座やオンライン教材を一つ調べてみるところから始めてみてください。
よくある質問
リスキリングとスキルアップは何が違うのですか?
一般的に、スキルアップは今の職務の延長で能力を高めることを指し、リスキリング(学び直し)は新しい職業や大きく変わる職務に対応するためにスキルを獲得することを指すと説明されます。ただし今回の調査では、企業の6割が「職務や役割の転換を前提にしない」取り組みをリスキリングと捉えており、実際の使われ方はスキルアップに近いケースも多いのが実情です。
会社のリスキリング施策に参加すれば職種転換できますか?
必ずしもそうとは限りません。みらいワークスの調査では、職種転換を伴うリスキリングを実践しているという企業は9.5%にとどまりました。多くの施策は現在の職務を前提にしているため、職種転換を目指す場合は社内公募制度の有無を確認したり、社外でも通用するスキルを自分で準備したりする視点が役立ちます。
生成AIが広がると、これまで学んだスキルは無駄になりますか?
すべてが無駄になるわけではありませんが、学ぶ内容の見直しは避けられそうにありません。調査では、生成AIの影響で「育成テーマ・カリキュラムの更新が必要」とした企業が37.1%にのぼりました。定型的な作業スキルより、判断・設計・対人といった領域に比重を置くと、陳腐化のリスクを抑えやすいと考えられます。
忙しくて学ぶ時間がありません。何から始めればよいですか?
調査でも「学習・業務適用の時間が確保できない」が阻害要因の上位(21.5%)に挙がっており、これは個人にも共通する悩みです。まずは学ぶ内容を「今の仕事に直結するもの」に絞り、通勤時間や休憩時間に取り組める短時間の教材から始めると続けやすくなります。学んだことを実際の業務で一度試すと、定着しやすくなります。
関連記事





コメント