「AIを覚えれば仕事は楽になる」と考えていた人ほど、いま戸惑っているかもしれません。世界11カ国・16,000人超を対象にしたKorn Ferryの最新調査では、AI導入が進んでも従業員の負荷は下がらず、61%が複数の役割を掛け持ちしていることが分かりました。この記事では、その調査データを読み解きながら、AIツールの操作スキルとは別に、これからのリスキリングで本当に必要になる力を整理します。
AI導入が進んでも負荷が下がらない現実
まず結論から言うと、AIが普及しても、現場の忙しさは解消されていません。人材コンサルティング大手のKorn Ferry(コーン・フェリー)が2026年9月8日に発表した「Workforce 2026 Global Insights Report」は、その実態を数字で示しています。
この調査は11カ国・16,000人超のビジネスパーソンを対象にしたものです。規模の大きい国際調査であり、特定の業界や国に偏らない傾向として読める点が特徴です。
業務量はむしろ増えている
調査では、従業員の62%が「過去2年で業務量が大幅に増えた」と回答しました。さらに45%が「成果を出すには忙しすぎる」と答えています。
AIによる効率化が語られる一方で、現場が感じているのは負荷の増加です。ここに、報道で描かれる「AIで楽になる職場」と実際の体感とのズレがあります。
AIに疲れた人の半数が「業務量が増えた」と回答
見過ごせないのが、AI活用がかえって負担になっているケースです。調査によると、AIに疲弊した労働者の52%が「AIの利用で逆に業務量が増えた」と回答しています。
新しいツールの習得、出力の確認、既存の進め方との調整。こうした作業が上乗せされると、短期的にはむしろ手間が増えることがあります。ツールを入れること自体が目的化すると、この落とし穴にはまりやすくなります。
経営層と現場で分かれる「AIの手ごたえ」
同じ組織の中でも、AIの効果をどう感じているかは立場によって大きく違います。この温度差が、リスキリングの方向性を考えるうえで重要なヒントになります。
CEOは79%、現場は51%
調査では、個人貢献者(IC)の51%がAIで効率化を実感した一方、CEOでは79%が効率化を実感していました。ICとは、部下を持たず自分の専門業務で成果を出す担当者層を指します。
経営層のほうが手ごたえを強く感じ、現場ほど実感が薄い。この28ポイントの差は、AIの導入効果が現場の実感として届いていないことを表しています。
数字だけを見て判断しない
このギャップは、リスキリングを考える個人にとって示唆的です。経営層が語る「AIで生産性が上がった」という言葉と、自分の日々の仕事の手ごたえが一致しないのは、珍しいことではありません。
つまり、ツールの導入率や経営メッセージだけを見て「もう遅れている」と焦る必要はありません。大切なのは、自分の業務のどこにAIが効き、どこには効かないのかを、自分の手ごたえで確かめることです。
掛け持ちが常態化する組織で起きていること
Korn Feryの調査は、AIと並んで組織構造の変化も浮き彫りにしています。役割が増え、それを支えていたモチベーションが下がっているという流れです。
61%が複数役割を担い、モチベーションは低下
調査によると、61%の従業員が「1人で複数役割分の業務」を担い、42%の組織が過去1年でマネージャー職を削減しました。従業員のモチベーションは2024年の71%から2026年は61%へと10ポイント下がっています。
管理職を減らし、その分の役割を現場が引き受ける。効率化の裏で、こうした負担の再配分が進んでいる可能性があります。
掛け持ちを前提にした働き方の見直し
役割の掛け持ちが常態化するなら、求められるのは仕事を速くこなす力だけではありません。複数の役割の優先順位を決め、抱えすぎないよう取捨選択する力が問われます。
具体的には、次のような視点が役立ちます。
- 自分が担う役割を書き出し、成果への影響が大きい順に並べる
- 影響の小さい作業は、AIや定型化で手間を削れないか検討する
- 引き受けきれない役割は、抱え込まず上司や同僚と再配分を相談する
これらはツールの操作とは別の、業務設計に近いスキルです。掛け持ちが前提の職場ほど、この力が成果と負荷の両方を左右します。
これからのリスキリングで問われる力
ここまでのデータを踏まえると、リスキリングの焦点は「AIツールを覚えること」だけにとどまりません。負荷が増え、役割が重なる環境で成果を出すための土台づくりが必要になります。
ツール習得と「業務の取捨選択」は別のスキル
AIツールの操作は、リスキリングの入り口です。ただし調査が示すように、ツールを使うほど確認や調整の手間が増える場面もあります。
だからこそ、「何をやめるか」「何を任せるか」を判断する力が並行して求められます。ツール習得と業務の取捨選択は、どちらも欠かせない別々のスキルだと捉えると整理しやすくなります。
- AIツールを使いこなす「操作スキル」
- 役割の優先順位を決める「業務設計スキル」
- 抱えすぎず任せる「取捨選択と分担のスキル」
今日から試せる第一歩
大きな学び直しを始める前に、手元の仕事から確かめられることがあります。まずは自分の1週間の業務を棚卸しし、AIで代替できる作業と、人でなければ判断できない作業を分けてみてください。
その仕分けができると、どのスキルを学ぶべきかが見えてきます。AIに任せる部分が明確になれば、空いた時間を成果に直結する仕事へ振り向けられます。学ぶ順番を決めるうえで、この棚卸しは有効な起点になります。
この記事のまとめ
Korn Ferryの調査が示したのは、AIが普及しても現場の負荷は自動的には下がらないという現実でした。要点を振り返ります。
- 従業員の62%が過去2年で業務量が大幅に増えたと回答(Korn Ferry、2026年9月8日発表)
- AIに疲弊した労働者の52%は「AIで逆に業務量が増えた」と回答
- AIの効率化実感はCEO79%に対しIC51%と、立場で温度差がある
- 61%が複数役割を掛け持ちし、モチベーションは71%(2024年)から61%(2026年)へ低下
これらのデータは、「AIを学べば楽になる」という期待だけでは足りないことを教えてくれます。ツールの操作スキルに加えて、役割の優先順位を決め、抱えすぎず任せる業務設計の力が、これからのリスキリングの核になります。
まずは自分の業務を棚卸しし、AIに任せられる作業とそうでない作業を分けるところから始めてみてください。学ぶべきスキルの輪郭が、そこから見えてくるはずです。
よくある質問
AIを学べば仕事は本当に楽になりますか?
自動的に楽になるとは限りません。Korn Ferryの調査では、AIに疲弊した労働者の52%が「AIの利用で逆に業務量が増えた」と回答しています。ツールの習得や出力の確認が上乗せされるためです。楽にするには、AIを入れると同時に「何をやめるか」を決めることが欠かせません。
個人貢献者(IC)とは何ですか?
部下を持たず、自分の専門業務で成果を出す担当者層を指します。マネージャーのように人を管理する役割ではなく、実務を直接担う立場です。Korn Ferryの調査では、AIの効率化を実感したICは51%で、CEOの79%と比べて手ごたえに差がありました。
これからのリスキリングで、まず何を学べばよいですか?
AIツールの操作スキルは入り口として有効です。ただし調査が示すように、役割の掛け持ちが常態化するなかでは、業務の優先順位を決めて取捨選択する力も同じく重要になります。まずは自分の業務を棚卸しし、AIに任せられる作業を切り分けることから始めると、学ぶべきスキルが具体的に見えてきます。
モチベーションが下がっているのは自分だけでしょうか?
個人差はありますが、傾向としては珍しくありません。Korn Ferryの調査では、従業員のモチベーションは2024年の71%から2026年は61%へと低下しています。背景には、マネージャー職の削減による役割の掛け持ちがあると分析されています。抱えすぎている場合は、役割の再配分を上司や同僚と相談することも選択肢の一つです。
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