必要スキルを明示する企業は63.7%|取得率を分ける17.4ポイント差

必要スキルを明示する企業は63.7%|取得率を分ける17.4ポイント差

「研修制度は整えたのに、社員のスキルがなかなか伸びない」。そう感じている人事担当者や経営者の方へ、一次データをもとにした手がかりをお届けします。鍵になるのは、制度の量ではなく「必要なスキルを言葉にして示しているか」という一点です。この記事では、JILPT(労働政策研究・研修機構)の最新調査が示したスキル明示の効果と、今日から着手できる改善の順番を整理します。

目次

スキルを明示する企業は63.7%、明示の有無でスキル取得に17.4ポイントの差

まず結論から示します。従業員に必要なスキルを明示している企業は63.7%でした。そして、スキルを明示していた場合の正社員のスキル取得率は88.2%、示されていなかった場合は70.8%で、その差は17.4ポイントです。

この数字は、労働政策研究・研修機構(JILPT)が2026年9月18日に公表した企業・労働者調査によるものです。調査は2026年3月17日から4月17日に実施され、企業2,354社・正社員8,720人から回答を得ています。厚生労働省政策統括官付の要請を受けた研究として行われました。

この章のポイント

  • 必要なスキルを明示している企業は63.7%
  • 明示あり群のスキル取得率88.2%に対し、明示なし群は70.8%
  • その差は17.4ポイント。制度の有無より「言語化」が効いている

「明示」とは何を指すのか

ここでいうスキルの明示とは、「この仕事にはこういう能力が必要です」と、企業側が従業員に具体的に伝えている状態を指します。研修プログラムを用意することとは別の行為です。

研修という「場」を用意しても、何を身につけてほしいのかが本人に伝わっていなければ、学ぶ側は方向を定めにくくなります。つまり、学びの入口に立つ前の「地図」を渡せているかどうかが問われているといえます。

17.4ポイントの差をどう読むか

スキル取得率70.8%と88.2%の差は、決して小さくありません。同じ社員集団であっても、必要なスキルが示されているだけで、取得できる人の割合が大きく変わる可能性を示しています。

研修の質や予算を増やす前に、まず「何を学んでほしいか」を言葉にする。この順番が成果を左右するという読み方ができます。

なぜ多くの企業がスキルを明示できないのか

明示していない企業にも事情があります。JILPT調査では、スキルを明示していない理由(複数回答)として次のような回答が挙がりました。

  • 自社にあったスキル等を設定することが難しい:41.8%
  • 日々の業務で精一杯で時間がない:39.4%
  • ノウハウを持つ人材がいない:27.9%
  • 有効な取り組み方法がわからない:25.2%

最も多いのは「自社にあったスキルの設定が難しい」で4割を超えます。能力を示すこと自体に反対しているわけではなく、「どう言語化すればよいか分からない」という手詰まりが実態に近いと読み取れます。

「難しい」「時間がない」は裏返すと着手ポイント

上位2つの理由は、裏を返せば改善の糸口でもあります。設定が難しいのであれば、最初から完璧なスキル一覧を目指す必要はありません。時間がないのであれば、全職種を一度に整えようとしないことです。

最初から精緻なスキルマップを作ろうとすると、かえって頓挫しやすくなります。まずは1職種・主要な5項目程度から始め、運用しながら直していく進め方が現実的です。

外部の制度も言語化の後押しになる

スキルの言語化は社内だけで抱え込む必要はありません。国の助成制度や職種別のモデルづくりも進んでいます。厚生労働省は、学んだスキルを処遇につなげる仕組みづくりを政策課題として検討しており、スキルの可視化を支援する枠組みも整備されつつあります。自社で一から考える前に、公的な資料や枠組みを下敷きにするのも一つの方法です。

必要スキルを明示する3つのステップ

言語化の進め方を、着手しやすい順に整理します。いきなり全社で始めるのではなく、小さく試してから広げるのが現実的です。

  • 対象を1職種に絞る
  • その職種で成果を出している人の行動を書き出す
  • 5項目程度の「できることリスト」にまとめ、本人と共有する

ステップ1:対象を1つの職種に絞る

まず、自社で人数が多い職種や、育成の悩みが大きい職種を1つ選びます。全職種を同時に扱わないことが、頓挫を避ける最大のコツです。

ステップ2:成果を出す人の行動を書き出す

次に、その職種で成果を出している人が「実際に何をしているか」を観察し、行動ベースで書き出します。「コミュニケーション力」のような抽象語ではなく、「顧客の要望を3点に整理して議事録にする」といった具体的な動作に落とすのがポイントです。

ステップ3:5項目程度に絞って共有する

書き出した行動を5項目前後に絞り、「この職種で必要なスキル」として本人に共有します。一覧を作ることより、本人に伝わっていることが目的です。渡して終わりにせず、面談などで一緒に現在地を確認すると、学びの方向が定まりやすくなります。

個人がこのデータから得られること

この調査は企業向けの内容ですが、働く個人にとっても示唆があります。必要なスキルが示されていない職場では、自分でスキルの地図を描く必要があるということです。

もし勤務先が必要スキルを明示していないなら、上司との面談で「この職種で評価されるのはどんな行動ですか」と具体的に尋ねてみる価値があります。これはステップ2を自分から引き出す行為にあたります。

転職時のチェックポイントにもなる

転職を考える際にも、応募先が「求める能力を言葉にできているか」は見極めの材料になります。求人票や面接で必要スキルが具体的に語られる企業は、入社後の育成や評価も見通しやすい傾向があると考えられます。

この記事のまとめ

JILPT調査が示したのは、研修制度の量よりも「必要なスキルを言語化して示しているか」がスキル取得を左右する、という事実でした。

  • 必要スキルを明示する企業は63.7%
  • 明示の有無でスキル取得率に17.4ポイントの差
  • 明示できない最大の理由は「自社にあったスキル設定が難しい」(41.8%)

人事担当者であれば、まず1職種・5項目から言語化を始めてみてください。働く個人であれば、自分の職種で評価される行動を上司に具体的に確認するところから始められます。完璧な一覧を目指すより、小さく言葉にして共有することが、次の一歩につながります。

よくある質問

スキルの明示とは、スキルマップを作ることですか?

必ずしも大掛かりなスキルマップは必要ありません。この調査でいう明示とは、「この仕事にはこういう能力が必要だ」と従業員に具体的に伝えている状態を指します。まずは1職種について5項目程度の「できることリスト」を共有するだけでも、明示の第一歩になります。

なぜ明示しているだけでスキル取得率が上がるのですか?

学ぶ側が「何を身につければよいか」を把握できるためと考えられます。JILPT調査では、明示あり群の正社員のスキル取得率が88.2%、明示なし群が70.8%で、17.4ポイントの差がありました。方向が定まることで、学習の効率が高まる可能性があります。

中小企業でも取り組めますか?

取り組めます。明示していない理由として「時間がない」「ノウハウを持つ人材がいない」が上位に挙がっていますが、全職種を一度に整える必要はありません。人数の多い1職種から、成果を出している人の行動を書き出す形で小さく始めるのが現実的です。

従業員側は、職場がスキルを明示していない場合どうすればよいですか?

上司との面談などで「この職種で評価されるのはどんな行動ですか」と具体的に尋ねてみることをおすすめします。必要スキルが示されていない職場では、自分でスキルの地図を描く意識が、学びの方向を定める助けになります。

参考文献

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