「学び直しをすれば給料が上がる」。そう期待してリスキリングを始めた人にとって、少し立ち止まりたいデータがあります。専門実践教育訓練給付金を使って学んだ人でも、在職者で賃金が上がったのは56%。学びが処遇に結びつくかどうかは、実は個人の努力だけで決まりません。この記事では、給付金アンケートが示す「処遇の壁」の正体と、学びを賃金につなげるために個人・企業がとれる行動を整理します。
学び直しをする人は約15%にとどまる
まず前提として、日本では仕事のために学ぶ人自体が多くありません。
内閣府の調査によると、過去1年間に仕事や職業キャリアに関して学んだ人は約15%にとどまります(日本経済新聞社説、2026年8月16日)。つまり、社会人のおよそ6〜7人に1人しか、キャリアに直結する学び直しに取り組んでいない計算です。
なぜ学ばないのか
学びが広がらない背景には、時間や費用の問題だけでなく、もっと根本的な理由があります。日経の社説は、学びへの障壁として「学んでも収入アップにつながらない」という回答が目立つと指摘しています。
要するに、「頑張って学んでも、待遇が変わらないなら始める意味を感じにくい」という受け止めが、最初の一歩をためらわせているということです。これは個人のやる気の問題ではなく、学びと処遇の関係が見えにくい構造の問題といえます。
教育訓練給付金アンケートが映す「56%と35%」
学びを後押しする代表的な制度が、専門実践教育訓練給付金です。厚生労働大臣が指定した講座を受講すると、費用の一部が支給される仕組みで、キャリアアップを目的とした学びの受け皿になっています。
その受給者アンケートの結果が、処遇の現実を映しています。
- 在職者のうち、受講後に賃金が上昇した人は56%にとどまる
- 離職して受講後に再就職した人のうち、35%はむしろ賃金が減少した
(いずれも日本経済新聞社説、2026年8月16日)
数字をどう読むか
この56%という数字は、見方によって印象が変わります。「半数以上は上がった」とも読めますが、裏を返せば働きながら学んだ人の4割強は、給付金を使って学んでも賃金が変わらなかったということです。
さらに深刻なのが、離職して学び直した人の35%が賃金減少に直面している点です。仕事を離れてまで学んでも、再就職時に前職の水準を維持できないケースが一定数あることを示しています。
なぜ学びが賃金に直結しないのか
問題を「学ぶ人の努力不足」に置き換えてしまうと、本質を見誤ります。日経の社説が提言しているのは、学びを処遇に結びつける仕組みづくりの必要性です。
「学び」と「評価」がつながっていない
多くの職場では、社員がどんなスキルを新たに身につけたかを、給与や評価に反映する仕組みが整っていません。学んだスキルが人事評価の項目に入っていなければ、いくら講座を修了しても処遇には反映されにくくなります。
つまり、学びが賃金に直結しない主因の一つは、企業側の評価制度に「学びの成果を測るものさし」が組み込まれていないことにあります。
制度が「入口」に偏っている
給付金は受講費用を補助する「入口」の支援には手厚い一方、学んだ後にその人の待遇がどう変わったかまでは追いきれません。学びの成果を賃金や配置につなげる「出口」の設計が、制度・企業の両面で弱いのが現状です。
学びを処遇に変えるためにできること
構造的な課題がある一方で、個人の側で成果を処遇につなげやすくする工夫はあります。学ぶ前に「出口」を意識しておくことが鍵です。
- 学ぶ内容を、勤務先や志望先で評価対象になっているスキルと重ねて選ぶ
- 受講前に、上司や人事に学びの目的と期待する役割の変化を共有しておく
- 学んだ成果を、資格・成果物・実務での適用例など目に見える形で残す
- 賃金に反映されにくい環境なら、スキルが評価される転職・社内公募も選択肢に入れる
企業側の動き — 学びを賃上げにつなぐ例
企業の側にも、学びと処遇を結びつけようとする動きが出始めています。
デジタル化支援サービスのメンバーズは、リスキリングを人事評価に組み込み、生産性向上に応じて賃上げする取り組みを行っています(日本経済新聞社説、2026年8月16日)。学んだ成果を評価に反映し、それを賃金につなげる。こうした「学び→評価→処遇」の一本の流れを設計することが、学び直しを機能させる条件だといえます。
この記事のまとめ
教育訓練給付金アンケートは、学びと処遇のあいだにあるギャップを浮き彫りにしました。
- 仕事のために学ぶ人は約15%にとどまる(内閣府調査)
- 給付金受給者でも、在職者で賃金が上がったのは56%
- 離職して再就職した人の35%は賃金が減少
- 主因は個人の努力不足ではなく、学びを処遇に結びつける仕組みの弱さ
大切なのは、学ぶ前に「学んだ成果がどこで評価されるか」まで見据えておくことです。評価制度に学びが組み込まれた職場を選ぶ、成果を可視化する、必要なら評価される場所へ移る。制度の限界を理解したうえで出口から逆算すれば、学び直しは処遇につながりやすくなります。給付金の利用を考えているなら、まずは対象講座の内容と、自分の職場での評価のされ方をあわせて確認してみてください。
よくある質問
専門実践教育訓練給付金を使えば賃金は上がりますか?
給付金の利用が賃金アップを保証するわけではありません。受給者アンケートでは、在職者で賃金が上昇した人は56%、離職して再就職した人の35%はむしろ賃金が減少しています(日本経済新聞社説、2026年8月16日)。学ぶ内容が職場で評価される分野かどうかが、処遇に反映されるかを左右します。
学び直しをする社会人はどのくらいいますか?
内閣府の調査では、過去1年間に仕事や職業キャリアに関して学んだ人は約15%にとどまります(同社説)。学びへの障壁として「学んでも収入アップにつながらない」という声が目立つと指摘されています。
学んでも待遇が変わらないのは自分の努力不足でしょうか?
必ずしもそうとは言えません。日経の社説は、学びが処遇に結びつかない要因として、企業や制度の側に「学びを処遇に結びつける仕組み」が十分整っていない点を挙げています。個人の努力に加えて、学びが評価される環境を選ぶ視点が重要です。
学びを賃金につなげている企業の例はありますか?
デジタル化支援サービスのメンバーズは、リスキリングを人事評価に組み込み、生産性向上に応じて賃上げする取り組みを行っています(同社説)。学びを評価・処遇に反映する仕組みを持つ職場では、学びの成果が待遇に結びつきやすくなります。
これから学び直しを始めるとき、まず何を確認すべきですか?
学ぶ内容が、勤務先や志望先で評価対象になっているスキルかどうかを確認することです。あわせて、受講前に学びの目的を上司や人事に共有し、成果を目に見える形で残しておくと、処遇に反映されやすくなります。
関連記事





コメント