「AIで事務職が減るらしい」という不安は、もう漠然とした噂ではなくなりました。人事部門自身のデータが、削減が見込まれる職種と増員が見込まれる職種をはっきり分けて示したからです。この記事では、パーソル総合研究所の最新調査をもとに、どの職種が減り、どの職種が増えるのか、そしてリスキリングの行き先をどう選べばいいのかを整理します。
人事部の生成AI活用は約4割まで進んだ
まず結論から言うと、企業の人事部門ではAIの日常利用がすでに珍しいものではなくなっています。パーソル総合研究所が2026年7月30日に発表した「人事部トレンド定量調査2026」によると、人事部でAIを日常的に活用している企業は39.2%、およそ4割に達しました(出典:パーソル総合研究所「人事部トレンド定量調査2026」2026年7月30日発表)。
つまり、AIを「試している」段階を越えて、採用や評価といった人の処遇に関わる業務にまで使い始めた組織が、10社に4社ある計算です。
どんな業務でAIが使われているか
人事部でのAI活用は、まず定型的な作業から広がっています。調査によると、活用業務は次の順で多くなっています。
- 一般的な事務・デスクワーク(最多)
- 人事評価・タレントマネジメント
- 研修・人材開発
要するに、書類作成やデータ整理といった手数のかかる事務作業から導入が進み、そこから評価や育成といった判断寄りの領域へと用途が広がりつつある、という流れです。
賃上げ企業は73%、判断軸が変わった
もう一つ見逃せないのが賃上げの動きです。2026年度に賃上げを実施・予定する企業は73.0%で、2022年度調査と比べて11.2ポイント増加しました(出典:同調査)。
注目したいのは、賃上げの判断基準が変わってきた点です。従来の「業績」中心から、「戦略的人材の採用強化」など人材を確保するための投資へと重心が移っています。人手不足のなかで、必要なスキルを持つ人材をつなぎとめるために賃金を上げる、という構図です。
- AIを日常活用する人事部は39.2%(約4割)
- 用途は事務作業が中心で、評価・育成にも拡大中
- 賃上げ予定企業は73.0%、判断軸は「人材確保」へシフト
AI活用が進む企業ほど「事務職減・IT職増」が鮮明
ここが今回の調査で最も重要な部分です。AIの活用度が高い企業ほど、職種によって将来の見通しがはっきり分かれています。同じ会社のなかで、減る職種と増える職種が明確に色分けされているのです。
一般事務職は42.5%が削減見込み
AI活用度が高い企業では、「一般事務職」を削減見込みとする割合が42.5%にのぼりました(出典:同調査)。定型的な事務作業ほどAIに置き換えやすいという、これまで言われてきた傾向がデータで裏づけられた形です。
ただし、これは「事務の仕事がすぐ消える」という話ではありません。削減を見込むのはあくまでAI活用が進んだ一部の企業であり、変化のスピードには企業差があります。とはいえ、方向としてどちらに向かっているかは、はっきりしています。
デジタル・IT職は56.3%が増員見込み
一方で、同じAI活用度の高い企業の56.3%が「デジタル・IT職」を増員見込みと回答しています(出典:同調査)。AIを導入・運用し、業務に組み込む人材の需要はむしろ高まっているということです。
つまり、AIは仕事の総量を一方的に減らしているのではなく、必要とされるスキルの中身を入れ替えていると読むのが正確です。事務作業を担う人手は減らし、その分をAIやシステムを扱える人材に振り向ける。この職種間の移動が、今まさに起きています。
このデータからリスキリング先をどう選ぶか
ここまでの数字を踏まえると、リスキリングの行き先はかなり具体的に絞れます。漠然と「何か学ばなきゃ」と焦るのではなく、増員が見込まれている領域から逆算するのが現実的な選び方です。
「AIに使われる側」から「AIを使う側」へ
目指したいのは、AIに仕事を奪われる側ではなく、AIを道具として使いこなす側に回ることです。具体的な第一歩として、次のような順番が考えられます。
- 今の業務のなかでAIに任せられる作業を洗い出す
- 生成AIを実際の業務で使い、できること・できないことを体感する
- データ活用・業務システム・IT基礎など、増員領域につながるスキルを一つ選んで学ぶ
- 学んだスキルを今の仕事の改善に使い、実績として残す
いきなり職種転換を狙うより、今の仕事にAIやITスキルを掛け合わせるほうが着手しやすく、成果も見えやすくなります。
事務職の経験は無駄にならない
ここで一つ、よくある誤解を正しておきます。「事務職の経験はこれから価値がなくなる」というのは言い過ぎです。
業務の流れを把握し、正確に処理を回してきた経験は、AIやシステムに何をどう任せるかを設計する力の土台になります。AIを業務に組み込む役割は、現場の仕事を知っている人ほど向いています。事務の知見にIT・データのスキルを足すことが、増員見込みの領域へ移る近道になり得ます。
AI活用の課題は「情報漏洩」——人事も手探り
最後に、AI活用が万能ではない現実にも触れておきます。導入が進む一方で、企業側も課題を抱えたまま前に進んでいるからです。
課題トップは機密情報漏洩リスク34.8%
同調査でAI活用の課題を尋ねたところ、最も多かったのは「機密情報・個人情報の漏洩リスク」で34.8%でした。次いで「情報の正確性・信頼性への懸念」が29.9%、「人事スタッフのスキル・リテラシー不足」も2割台半ばにのぼっています(出典:同調査)。
人の情報を扱う人事部門だからこそ、漏洩や誤りへの警戒が強いのは自然なことです。
リテラシー教育がリスキリングの前提に
裏を返せば、AIを安全かつ正確に使えるリテラシーそのものが、これから評価されるスキルだということです。ツールを速く使えるだけでなく、入力してよい情報とそうでない情報を判断し、出力の正しさを確認できる力が求められます。
リスキリングを始めるなら、AIの操作方法とあわせて、情報の取り扱いルールや出力の検証方法まで学んでおくと、実務でそのまま活かせます。
- 増員見込みのデジタル・IT領域から学ぶ内容を逆算する
- 今の業務にAI・ITスキルを掛け合わせて実績を残す
- 情報の取り扱いと出力検証のリテラシーもセットで学ぶ
この記事のまとめ
パーソル総合研究所の調査は、AIが職場にもたらす変化を職種単位で具体的に示しました。人事部のAI活用は約4割まで進み、AI活用度が高い企業では一般事務職の削減見込みが42.5%、デジタル・IT職の増員見込みが56.3%と、方向がはっきり分かれています。賃上げ企業も73.0%に増え、企業は必要な人材の確保に動いています。
大切なのは、この数字を不安の材料にするのではなく、行き先を決める地図として使うことです。増員が見込まれる領域から学ぶ内容を逆算し、今の仕事にAI・ITスキルを掛け合わせていく。事務で培った業務理解は、その転換を後押しする資産になります。
まずは、今の業務のなかでAIに任せられる作業を一つ書き出すところから始めてみてください。学ぶ方向が具体的に見えてくるはずです。
よくある質問
事務職はAIで本当になくなるのですか?
すべての事務職がすぐなくなるわけではありません。パーソル総合研究所の調査で「一般事務職を削減見込み」と答えたのは、AI活用度が高い企業の42.5%です。変化のスピードには企業差があります。ただし方向としては削減側に向かっているため、事務スキルにAIやITの知識を足していく準備が有効です。
リスキリングでまず何を学べばいいですか?
増員が見込まれているデジタル・IT領域から逆算するのが現実的です。同調査ではAI活用度の高い企業の56.3%がデジタル・IT職の増員を見込んでいます。生成AIを実際の業務で使ってみる、データ活用やIT基礎を学ぶ、といった今の仕事に接続しやすいところから始めるのがおすすめです。
賃上げ企業が増えているのはなぜですか?
人材確保のためです。2026年度に賃上げを実施・予定する企業は73.0%で、2022年度比11.2ポイント増でした。判断基準が従来の「業績」中心から「戦略的人材の採用強化」へ移っており、必要なスキルを持つ人材をつなぎとめる目的での賃上げが広がっています。
AIを使えるだけでスキルとして評価されますか?
操作できるだけでは不十分になりつつあります。同調査ではAI活用の課題として「機密情報・個人情報の漏洩リスク」が34.8%で最多でした。入力してよい情報の判断や、出力の正しさを確認できるリテラシーまで含めて身につけることが、実務で評価されるポイントになります。
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